2023年5月17日~18日で都市デザイン研究室のメンバーで主に釜石・気仙沼を中心とした被災地を巡る調査旅行を行いました。
全三部構成のうち、第二部では気仙沼で、B4の小林・志村が報告します。
写真1.「失われた街 模型復元プロジェクト」による気仙沼中心部の模型
<柳瀬彩花さんへのインタビュー>
2023年5月18日、□ship (スクエアシップ)1)を訪問し、気仙沼市の地域おこし協力隊として活動している柳瀬彩花さんから、移住までの経緯と、気仙沼での生活の様子を伺った。柳瀬さんは2021年秋に、大学の調査で初めて気仙沼を訪問した。その後、2022年冬の長期休み中に気仙沼に滞在し、2022年春から気仙沼市に移住して地域おこし協力隊としての仕事を始めている。
【気仙沼市の現状】
気仙沼は世界三大漁場のひとつで、東日本大震災では、甚大な被害を受けた地域で、震災時のボランティアを筆頭に移住者が増加している。理由としては、漁港があり、昔から多様な人を受け入れる風土があることや、チャレンジを応援してもらえる環境が整備されていることが挙げられる。
例えば「気仙沼まち大学運営協議会」では、2016年に民間と気仙沼市の協働で「気仙沼まち大学構想」が打ち出され、小さなリーダーがたくさんいる町を目指すようになったという。その他にも、起業したい人を支援する取り組みとしての「ローカルベンチャーラボ」、スポーツツーリズムプロジェクトとして気仙沼マラソンといった事業が行われ、宿泊施設・スポーツ施設・弁当屋が協力・連携したりする活動が生まれている。
柳瀬さんは、会員制シェアスペース「□ship (スクエアシップ)」の運営に携わっており、移住定住支援、チャレンジャー支援、学び合いの拠点づくりや、気仙沼ツーリズムの活動を行っている。また、まちの課題として、移住者同士のコミュニティはあるが移住者と長年住む人の接点が少ないと感じている。
【質疑応答】
Q.移住者はどのような人が多いのか。
A.移住してきた人はチャレンジャーが多い(中でもデザインが盛ん)。漁師になる人も一定数いる。
Q.休みの日、若者はどこに行くか。
A.遊ぶ場所がないので休日は喫茶などに人に会いに行くことが多い。高校生は近くのボーリング場に行く。
Q.気仙沼の何に沼ったのか。
A.気仙沼の風景にハマった!(笑)
Q.同じような海の風景は他にもあるが、なぜ気仙沼だったのか。
A.他の町は防潮堤が高かったが、気仙沼はそれを感じなかった。また、□ship (スクエアシップ)などの移住したら来る場所があることも大きかった。
Q.元々いた住民は移住者のことをどう感じているのか。
A.元々いた住民には受け入れられるが、なぜ気仙沼だったのかは不思議がられる。くるくる喫茶は新旧の人が混ざっている場所の一つ。
Q.気仙沼への移住が多い理由
A.陸の孤島で、世界とつながる仕事で常に新しいものを誰かが取り入れてくるので、新しい物好きという特性がある。
Q.移住者はどれくらいいるのか。また、暮らしやすさについてはどうか。
A.総人口は下がっているものの、合計数千人の移住者がいて、年に百人くらい移住してくる。家賃は高いが収入は高くないが、どのコミュニティに属するかなど、暮らしやすさをどう捉えるかが大事。
Q.地域おこし協力隊2)を終えた後はどのような将来像を描いているか
A.地域おこし協力隊場づくりがしたいのか、それ先に目標があるのかを揺れ始め、沼大学に入学。住まいが暮らしに入り込んだコレクティブハウスに興味がある。「Omusubi」3)という近くにあるシェアハウスが理想で、話し合いをつくれる場所、カフェよりも暮らしに入り込んだ場所があればいいと感じている。
<気仙沼の空間整備と魅力>
気仙沼は漁業が盛んで、海の近くで暮らしが営まれていた。震災後は巨大な防波堤を作るのではなく、フラップゲート4)を設けることで防波堤の高さを下げ、商業施設と公共施設を防潮堤と一体化させたことで、2階部分から海を見晴らせるようにするなどの、「海とともに暮らすこと」を選んだ街である。柳瀬さんへのインタビューを通して、気仙沼は移住者を受け入れる環境が整っており、移住者同士での繋がりが構築されていることや、海の見える街だからこその魅力があることがわかった。
移住する際は、既存のコニュニティに対していかに順応するかが大きな課題であると考えられる。既存のコミュニティの人々も移住者を毛嫌いしているわけではないが、受け入れる姿勢がまちとして整っていないことが多い。災害によってコニュニティが分断されたことは不幸ではあるが、新規コニュニティの受け皿をつくりながらまちの復興を目指す気仙沼のあり方は、既にコニュニティが形成されている他の地方都市では容易に真似できるものではなく、地域コミュニティの”リープフロッグ”が起きつつあると考えられるのではないだろうか。復興を契機に更新されるまちは、震災を経験していないまちにとっても重要な意味を与える存在であり、大いに注目する価値があると考えられる。
【謝辞】
今回ヒアリングにご協力いただいた柳瀬さん、関係者の皆様にお礼申し上げます。
1) 気仙沼市まち・ひと・しごと交流プラザの2階にある会員制シェアスペース。移住定住支援、チャレンジャー支援、学び合いの拠点の提供を行う。
2) 地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に住民票を異動し、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組。隊員は各自治体の委嘱を受け、任期はおおむね1年から3年。
3) 気仙沼に来る新しい生活をはじめる女性へ向けた子育てシェアスペース。託児・リラックスルーム・シェアハウスの機能を有した施設。
4) 海底に一列に扉体を設置し、浮力を利用して扉体を旋回起立させることで連続した防波堤を形成する可動式の構造物。