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2020

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ビヨンド・コロナ時代の都市・建築を考える -collaborated with CIAT-

オープンレクチャー

開催:5月4日〜6日@Google Meet

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ビヨンド・コロナ時代の都市・建築を考える
Collaborated with CIAT
 
《オープンレクチャー レポート》
 
 
 近年の日本では例を見ないパンデミックによって、学生はGWにもかかわらず身動きがとれない。そんな状況を逆手に取り、東北大学出身で、日本で広く活躍する3人の若手建築家・土木デザイナーによる、3日連続の緊急オンラインレクチャーが開催された。

 
 
 
 
 1日目は、4つの住宅プロジェクトをもとに論理的な建築を考える髙橋一平さんによるレクチャー。一般に住宅を作る時には、「住み手はどのような空間を欲しているか」などの内への視点で考えがちだ。しかしそれでは、周辺環境を含めた空間の拡がりの可能性を追求するには限界がある。あえて一般的な住宅という枠組みを「不完全」にすることで住み手の想像力を広げていくことができるという。
 
 例えば『Casa O』では、仕切りがない部屋にバスタブを静置している。これは「不完全さ」が想像を引き出すことを狙っており、バスタブの存在感によってときには部屋全体がバスルームのように感じられることを期待している。
 
 『アパートメントハウス』は、ある住戸は風呂だけ、またある住戸はキッチンだけというような「不完全な」住戸の集合である。そこには、住み手同士で生活に必要な機能を補うための自然な交流すら想起されている。
 
 『河谷家の住宅』は、歴史的な街並みを持つ川越の景観に馴染まない設計だ。そのような、奥行きを持ち、街から家を隠すような視覚的な「不完全性」は、住み手に川越の歴史や景観のイメージを想起させる。藤野さんとの対談では、この住宅に関して外との「距離感」が話題にあがったが、髙橋さんにとって、距離も人の想像の中で自由に操作できるものだ。
 
 髙橋さんの思想の根底にあるのは、直接的な要求にそのまま応えていない一見不完全に見える空間も、巧みなものの構成によって人の想像力を惹起し、結果豊かな状況を生み出すという確信である。
 
 
 
 
 2日目は「分断されたものを、つなぐこと」をテーマにした渡邉竜一さんによるレクチャー。渡邉さんは、人と環境をつなぐ論理的なデザインや動的な観点からの人の体感を重視する。しかし、一方では人や環境と関係なく、それ自体で人がいなくても美しい風景をつくりたいという一面もある。それが「誰もが独りで居られる場所、人がいなくても良い風景」という言葉に現れる。また、人の共感や愛着など時間を超えた広がりにも言及しており、「人が置き去りになる」ことが起きないようにするという話も印象的だ。
 
 『出島表門橋』では、その思想を表すように、出島への敬意を払うことと河川内に橋脚を設置しないことによる風景との接続が試みられている。また、工学的な合理性では決めきれない領域を担保し、そこに空間の体験を優先させた勾配をつけた他、河川のカーブなどの周辺環境に合わせて線形を決めている。さらには、様々なプロジェクトによって橋を架ける行為自体を街の人々と共有し、土地の記憶へのアプローチを可能にした。
 
 髙橋さんとの対談では、ジオメトリーの操作から、人の体感や目で触ることによる存在感の変化に表現の可能性があることが示された。視覚的な景観だけではなく、体感という経験をデザインすることは、二人の共通の意識であり、いかに人に想像力を与えるかという前日の髙橋さんのレクチャーともつながる。一方で、工学的な合理性がより求められる橋梁デザインに、体感という感覚的な価値を与えることは難しい。その困難に打ち勝つのに必要なツールとして渡邉さんはジオメトリーの存在を強調した。
 
 
 
 
 最終日である3日目は藤野高志さんによる、事務所「天神山のアトリエ」からのレクチャー。たった1時間で、一挙に30の作品の紹介があった。その全てに一貫して意識されているのは、「建築が、人の意識と環境を分断しない」ということだ。「内外の融合」は建築デザインでしばしば用いられる手法だが、それは内外の存在を前提としている。藤野さんにとっては、人と環境があるだけだ。それを邪魔しないような建築要素を挿入した結果、弱い境界線をもつ不完全な建築がたち現れる。
 
 『天神山のアトリエ』も、境界が薄い不完全な建築だ。かつて藤野さんが住んでいた東京では人波、会津では厳しい気候というように、環境がダイナミックに変化する。そのような土地では、閉じた建築でも人は外に意識を開くことができる。変化の乏しい高崎市では、その環境を意識できるよう、建築を不完全なままにしなければならないという。
 
 このレクチャー後の対談では、「不完全」や「環境」をキーワードに議論がなされた。モデレーターは渡邉さんだが、髙橋さんも参加した。髙橋さんの『アパートメントハウス』などは、普通の住宅にはあるはずの機能や用途の不完全を目指す。渡邉さんの『出島表門橋』は、新しい外部環境そのもの、風景そのものになることを目指す。使われている言葉は同じでも意図していることは藤野さんとは異なる。
 
 
 
 
 建築が中心にあるため、決定的な思想の違いは見出しづらいが、3人の向いている方向は明らかに異なる。この議論にコメントで切り込める学生はいなかった。彼らの議論は尽きることがなく、時間切れで最終日は幕を閉じた。
3日連続という形式だからこそ、彼らの思想の共通点と相違点、その結果としての形態が非常にわかりやすい形で伝えられる。家から出られない学生に対応するための急ごしらえのレクチャーにも関わらず、有意義な学びの機会となった。今回のCIATが実現させたのは、コロナ禍以後を予感させる、高度な知性が直接繋がり合う新しいクリエーションの世界であろう。
 
 

 

尾崎景星 竹谷亮平 成田知里 藤元藍理