建築は、時代を先駆ける空間ビジョンが、先端的な工学的技術に支えられ実現する社会芸術だと言われます。史上最古の建築理論家として知られる共和政ローマ時代に活躍したウィトルウィウス(Marcus Vitruvius Pollio)は、著書、建築十書の中で、「よい建築は、堅固さ、機能、美しさ、という3つの条件によって成り立つ」と述べていますが、優れた建築が、社会の必要に応じて人間のための技術的に有効な空間を創り出す実践的な学問であるという指摘は、二千年経過した今日においても、尚、通じる点が少なくありません。
優れた建築を設計(Design)するためには、人間の生活環境を安全・快適にするための構造・材料・環境などの様々な規範(Discipline)に基づく幅広い工学的理論(Technology)と、人間の生活環境を豊かにするための感性に訴えかける芸術性(Art)のいずれもが不可分に統合された解が求められます。東北大学では、多くの異なった規範の理論に習熟し、その中から最適な技術を用いて人々の感性に訴えかける空間に統合する「多規範適応型」の実践的な教育を目指しています。
建築は、工学部のなかでもっとも人間に近い分野と言えるかもしれません。
そもそも、わたしたちの生活のほとんどは、建築の中で営まれています。
しかし、それがただのハコであっては、無味乾燥な世界になってしまいます。
建築学は、そうした生活の器を人間にとって豊かな場にするために、
以下のテーマを研究し、実践しています。
・使いやすい魅力的な空間を設計すること
──例えば、デザイン、計画、制度、歴史保存
・快適な環境を実現すること
──例えば、熱、光、空気、音、エネルギーの効果的な制御
・安全な構造により居住空間に安心を提供すること
──例えば、災害に強い構造、耐久性のある材料、生産性
建築とは、地球環境時代の工学的なテクノロジーから人文的な知や芸術的な感性まで、
様々な領域を横断しつつ、それらを統合する技術です。
東北大学の都市・建築学専攻にも、4つの講座があります。
すなわち、都市・建築デザイン学講座/都市・建築計画学講座/
サステナブル空間構成学講座/建築構造工学講座は、幅広い建築学の分野をカバーしつつ、
それぞれが世界レベルの先端的な研究を通じて、社会に貢献しています。
当専攻では、未来の豊かな環境を創造したい学生を歓迎します。
IDEASキャンパスで講評会を行う阿部仁史さん。IDEASキャンパスは、UCLA建築・都市デザイン学科で阿部仁史さんが学科長時代に新たに開設した、デザインとテクノロジーとの融合が拓く建築の新たな可能性を探るサテライトキャンパスです。独自に考案したスープラスタジオという全米に例のない形式の大学院のプログラムのホームベースとなっており、フランク・ゲーリー、トム・メイン、グレッグ・リンなどの世界的に著名な建築家が教鞭をとっています。
阿部仁史さんは生まれ故郷の仙台と留学経験のあるロサンゼルスに建築設計事務所を開設し、両都市を拠点に多くのデザインプロジェクトを手がけるとともに、UCLA教授としても教育・研究に携わり、文字通り世界を股にかけグローバルなフィールドで活躍する建築家です。橋の設計からモバイルショップまで幅広いデザインに関わる阿部仁史さんが建築作品を設計する際に何よりも大切にするのは、その作品が建つ地域性。Think Global Act Local:まさに地域と世界を繋ぐデザインを実践する世界的な建築家です。
銀座3丁目に立つ「MUJI HOTEL GINZA」は、「『無印良品』の思想を体感できるホテル」がコンセプトです。すでに中国で開業し、高い客室稼働率を誇る深圳、北京に次いで、世界3番目の「MUJI HOTEL」になります。企画・内装設計を手掛けたのは、梶原文生さんによって設立されたUDS株式会社。彼らの強みは、設計にとどまらず、企画から運営まで一貫して請け負うスタイルです。この“仕組み化”で社会に新しい風を送り続ける革新的スタイルは、総合プロデューサー兼建築家と呼ぶべき、これまでにない立ち位置を建築業界において確立しています。
梶原さんのスタイルは建築の専門性を軸にしながらも、一つのDiscipline(専門分野)に留まらないInter-Discipline(学際的)なアプローチが特長です。常に既存の既成概念を超えたモノとコトの関係を生み出す柔軟な発想を持ち、最適な手法を開発し、必要な技術を活用する。まさに領域横断する知性とスキルを持ち合わせ、唯一無二な専門性(Speciality)を実現する新たなデザイナー像に他なりません。

実験用の巨大な試験体(10階建ての鉄筋コンクリート建物)の前に立つE-ディフェンス・センター長の梶原浩一さん。E-ディフェンスはご覧の通り実験施設も巨大ですが、実験用の試験体のサイズも世界最大級の規模を誇ります。梶原浩一さんはこの試験体を使って複数回の大きな地震を受けても継続利用できる質の高い建物技術を目指し、新しい配筋の設計方法を検討しています。
E-ディフェンスは、構造体、2次部材(非構造部材)、設備機器、モニタリングシステム、各種機械装置等について、建物全体で総合的に評価や高度化を検討できるユニークな実験施設です。約1000局の計測システムで定量的なデータや地震時における挙動を示す映像を取得することができます。運用を開始してからこれまでに東北大の多数のOB・OGも参加して100課題の実験を完遂してきました。E-ディフェンスは、日本国内ばかりではなくグローバルに開かれたセンターであり、梶原浩一さんがリーダーとなって「人間×環境」の安心・安全を支える最先端の技術を世界最大の研究施設で日々追求しています。